case29-2018
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcpc1807497
31歳、女性
C.C. : 不妊
現症
・12歳時に成長曲線に伴う第二次性徴、乳房発育が認められた。
・月経前症候群、月経血貯留(モリミナ)、乳汁漏出、視野異常、頭痛、血管運度異常などは認められない。
・服薬無し
・タバコー3~5/ day
・家族歴ー患者母は子宮内膜症で子宮除去、母方の祖父は心筋梗塞で死亡、患者父、2人の姉妹は健康。
・身体初見
B.P. : 118/ 74
weight : 68.1 kg
height 172.7 cm
BMI : 22.8
・体毛は薄い
・正常の女性の外性器、膣長、異常膣分泌無し、骨盤臓器脱無し。
・子宮、子宮頸部の欠損
・左付属器に軽度の膨らみ
・感染性は認められない
・FSH低値、LH高値
僕らの考えた鑑別疾患
・染色体異常(ターナー症候群)
・ミュラー管形成不全
・アンドロゲン不応症
エコーで子宮、子宮頚部が無いと記載されていたため、うーーーん。器質的な疾患によるものかな、染色体の異常に由来するのかなと思いながら、上記の3疾患を挙げました。
追加検査には核形の調査をしたいです。
MGH的鑑別疾患
1.Y染色体の欠損、異常
2.XY染色体由来のステロイド性の欠損
・17beta-ヒドロキシステロイド欠損
・P450c17欠損
3.完全XY性腺異形成
4. 5alfa- reductase deficiency
5.leydig cell hypoplasis
6. mullerian aplasia
7.androgen insensitivity synd
を挙げていました。
1.Y染色体の欠損、異常
まず男性化についての説明をしていくと、
Y染色体の短腕にあるSRYという部分が未分化性腺に作用し、精巣、ウォルフ管形成、男性らしさの獲得に繋がります。
さらに、精巣のセルトリ細胞から抗ミュラー管ホルモンが分泌され、ミュラー管形成がstopします。
このことでXYのもと、ヒトは男性ぽい体つきになる。
もしY染色体がなければ、この過程すべてがなくなるため、男性ぽくなくります。
2.XY染色体由来のステロイド性の欠損
・17beta-ヒドロキシステロイド欠損
この疾患では、アンドロステジオンをテストステロンに変換できなくなるので、胎児ときからアンドロゲンに曝露されていない状態になり、男性としての性分化は生じなくなる。
もし、精巣が除去されないと、思春期で若干の男性化が認められる。
・P450c17欠損
このP450c17という酵素は、17alfa- hydroxlaseと17,20- lyseの働きをコントロールしている。
この酵素が欠損していると胎児のアンドロゲン不足につながる。
出生時の外性器は女性形で、幼少期に副腎クリーゼを生じる事が多い。
軽度な酵素欠損では、思春期の遅延、低カリウム血症、高血圧を呈する。
3.完全XY性腺異形成
・gonadal dysgenesis =Swyer synd
・SRY gene の欠損 or 異常による
SRY(ー) → 精巣(ー)
索状性腺(生殖細胞を持たない)で、低形成の子宮で、cervixなどのミュラー管系組織が無い。
・臨床症状
乳房発育遅延、思春期遅延、月経遅延
・診断
出生時 or幼少期につく。 plus 性腺癌のリスクのため、性腺除去が推奨される。
4. 5alfa- reductase deficiency
・5alfa- reductaseはテストステロンをジヒドロテストステロンに変換する酵素。
・出生時に女児生殖器を有する一方で過剰のテストステロンによりぼやけた形状のものも認められる。
・思春期にて男性化の可能性がある
5.leydig cell hypoplasis
・XYでのLHホルモン受容体のGPCRを不活化する変異に基づく。
これにより、Leydig cells の胎生期のアンドロゲン産生が欠落し、女性体型となる。
・一方で、2次成長無し、思春期無し
6. mullerian aplasia
・XX genotype
・ミュラー管に誘導体が無いため、卵巣(+)、思春期(+)、乳房発育(+)、腋毛恥毛発育(+)
・内分泌的に女性ぽく、出生時に女児に典型的な外性器を持つ。
・特定の遺伝子の欠損、散発的な変異に関係する
7.androgen insensitivity synd
・XY genotype
・アンドロゲン受容体geneの変異
・完全アンドロゲン不応症では精巣(+)、アンドロゲン高値。
・ウォルフ管が成熟しない(アンドロゲン不応で)、ミュラー管の形成不全(セルトリ細胞の抗ミュラー管ホルモンにより)
→女性体型、女性外性器をもち、子宮、子宮頸部を持たず、上部膣、精索不全症(停留精巣)となる。
・思春期有り、乳房発育有り
→これは末梢の組織でテストステロンがアロマターゼによりエストロン(E1)へ転換されているため
以下の2つに絞っていました。
・mullerian aplasia
・androgen insensitivity synd
・LH高値に関らず2回の測定でFSHは低値
↓
・正常の女性の月経周期ではない。
・もし、早発卵巣不全ならFSH > LHでかつ、閉経期の値に近いものになる。
・FSHの低値はアンドロゲン不応症ぽい。
LHはgonadal steroidsによりfeedbackされ
FSHはgonadal steroidsとinhibin Bにより、feedbackされる
・アンドロゲン不応症ではアンドロゲン高値でもGnRH分泌を抑制しない。
・セルトリ細胞からのinhibin Bにより部分的にFSH分泌が抑制される。
・本症例でのFSH低値はこのinhibin Bによるものと考えられる。
⇊
エコーでの左付属器のmild fullness相当しそう
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核形は46XYであった。
⇒完全アンドロゲン不応症
追加検査で、
・テストステロン高値
・デヒドロエピアンドロステジオンーサルフェート高値
・インヒビンB高値
・MRIで、uterus, cervixを認めない。
膣上部から左右の鼠径靭帯に子宮円索様の索状構造を認めた。
左右の生殖腺は骨盤腔前方に存在し、卵胞は認められなかった。
性腺の腫瘤なし
フォローアップ
・潜在的な精神作用がこの診断により患者やその家族にもたらされる。
・完全アンドロゲン不応症は、幼少期では鼠径ヘルニアで、思春期では原発性無月経にて診断される。
・この症例では31歳と比較的めずらしい年齢である。
・完全アンドロゲン不応症の50%で鼠径ヘルニアを発症
・女性全体の1%に完全アンドロゲン不応症がある。
鼠径ヘルニアの女子は追加で膣鏡と腹腔鏡にて内性器の状態を確認する。
停留精巣のがん発症リスクは1-2%
精巣腫瘤の発生率は5.7 / 10.000
停留精巣が癌化する恐れがあり、摘出することを推奨する。
治療は、停留精巣除去と、エストロゲン補充療法
停留精巣の病理所見は
大きさ:
右:19 g, 5.3*2.5*0.6 cm
左:24 g, 4.1*2.6*2.1 cm
精巣上部にはcyst (+)があり
右:2.1*2.2*1.2 cm
左:1.6*1.1*1.1 cm
下部にはしっかりした索状物が存在した。
顕微鏡での調査によると、
腫瘤は3つの要素で成り立っている、
・セルトリ細胞管
・ライディッヒ細胞
・卵巣様の間質
この標本でも、3つの要素が認められた
以上
婦人科は単語も難しく、基礎的なことも勉強する必要があり大変でした。
勉強して感じたことは、遺伝子的には男性だけれども、ホルモン分泌・受容体異常で出生してから、女の子として自他が認識していたのに、いきなり『あなたは、ほんとうは男性なんです』と宣告されたら、困惑するだろうな思いました。診断後のフォローアップは非常に大切になると実感しました。
婦人科の単なる1疾患として考えていたのですが、ここまで深いことを考えさせてくれて感謝です。